運送業を個人事業主として請負で始めることは可能?開業方法も説明

運送業を個人事業主として請負で始めることは可能?開業方法も説明

運送業は個人事業主として開業することが可能です。個人事業主として営業する場合は、業務委託・請負契約により、荷物の運送を行います。ただし、運送業を始める場合、運輸支局に申請を行うことが必要です。

この記事では、運送業を個人事業主として開業したい人に向けて、必要な申請や開業するメリット・デメリットについて解説します。また、運送業を開業する場合に注意しなければならない偽装請負についても取り上げるため、ぜひ参考にしてください。

個人事業主として請負で運送業を始めることは可能?

個人事業主として運送業を始めることは可能です。宅配業者の需要が高まる中、ウーバーイーツやAmazonフレックスなどの運送業に、個人事業主として携わる人が増えています。中でも委託ドライバー(請負ドライバー)になりたい人は、増加傾向にあります。

委託ドライバーとは、貨物運送会社や荷主からの配達の仕事を業務委託として受注するドライバーのことです。運送業界は、ネット通販の普及に伴う荷物の増加や人手不足といった問題を抱えているため、配送を請け負う委託ドライバーの需要は急増しています。

個人事業主として運送業を開業するために必要な許可

個人事業主が運送業者として独立開業するためには、運輸支局に申請して許可を得る必要があります。ただし、運輸支局の許可を得るためには一定の条件を満たさなければなりません。

運送業の許可申請には、「一般貨物自動車運送事業(以下、一般貨物運送業)」と「貨物軽自動車運送事業(以下、軽貨物運送業)」の2種類があります。

一般貨物運送業とは、「普通トラックを使用して、荷主の荷物を運送する事業」のことです。一般貨物運送業は、軽トラックを除く事業用自動車5両以上かつ運行管理資格者・整備管理者の1名以上が必要など、開業にあたってさまざまな条件が指定されています。また、申請書を提出した後に法令試験の受験・合格や運輸局での内容審査などが必要となるため、実際に許可が出るまでに12~16週間程度かかる点も特徴的です。

一方、軽貨物運送業は一般貨物運送業に比べてやや条件が軽くなっています。軽貨物運送業は「軽トラックを使用して、荷主の荷物を運送する事業」のことです。また、車両は1両以上から始めることができます。

出典:近畿運輸局「普通トラックを使用して行う運送業」

出典:近畿運輸局「軽貨物運送業の内容と手続方法」

申請・許可以外の開業するためのポイント

個人事業主が運送業を開業する際には、運輸支局への申請以外にも押さえておくべきポイントがいくつかあります。

運送業は車で仕事をする業種のため、開業にあたっては、自賠責保険だけではなく任意の自動車保険への加入が推奨されています。対人・対物の損害補償はもちろん、仕事で荷主の大切な荷物を扱うことから、荷物の所有者に対する損害賠償に対応できる保険への加入も検討する必要があるでしょう。

また、個人事業主としての開業届の提出がまだの場合は、開業日から1か月以内に忘れずに提出してください。開業届提出の際には、節税効果の高い青色申告の手続きも行うのがおすすめです。

個人事業主として運送業を始めるメリット・デメリット

個人事業主として運送業を始めるには、さまざまなメリット・デメリットがあるため、両方を理解した上で検討することが重要となります。ここからは、個人事業主として運送業を開業する場合の主なメリット・デメリットについて解説するため、参考にしてください。

メリット

個人事業主として運送業を始める場合、以下のようなメリットがあります。

(1)働いた分だけ報酬を得られる

個人事業主の運送業者の報酬は歩合制です。固定給の会社員とは違い、勤務した分だけ報酬を得られます。仕事内容や件数によっては、大幅な年収アップも期待できる点が大きなメリットです。

(2)休日や労働時間を自分で調節できる

個人事業主の運送業者は、休日や始業時間・終業時間、1日の労働時間などを基本的に自分で決められます。休憩時間などの取り方も含め、労働時間を自由に調節できる点は大きなメリットと言えるでしょう。健康面に不安がある場合は、自分の体調に合わせた働き方ができる点も魅力と言えます。

(3)人間関係で悩むことが少なくなる

個人事業主の運送業は上司や部下といった関係性がない労働環境であるため、人間関係のしがらみが少ない点がメリットの1つです。

(4)初期費用をあまりかけずに開業できる

個人事業主として運送業を始める場合、軽貨物車両1台から仕事をスタートできるため、最初にかかる資金が少ない点が大きなメリットです。

デメリット

個人事業主として運送業を始める際には、以下のようなデメリットもあります。

(1)経費が自己負担になる

個人事業主として運送業を行う場合、ガソリン代や車検代、保険料などさまざまな経費がかかります。会社員とは異なり、仕事や車両の維持にかかるすべての経費が自己負担となる点が大きなデメリットです。

(2)有給休暇がない

個人事業主には有給休暇がなく、休んだ分だけ収入が減る点もデメリットの1つです。業務委託を受けているにもかかわらず無断で仕事を休んだ場合には、契約の解除や損害賠償請求をされる恐れがあるため、休むことに関しては会社員以上に注意が必要です。

(3)仕事ができなくなった場合に収入が途絶える

病気やケガなどで仕事ができなくなった場合、収入が途絶える点が個人事業主の大きなデメリットと言えます。心配な場合は、個人事業主の休業補償をしてもらえるような保険を利用するのも手段の1つです。

(4)報酬が支払われるのが遅い場合がある

会社員は給料が毎月決まった日に振り込まれるのが一般的ですが、委託ドライバーの場合は委託先の企業などによって支払日が異なります。委託先によっては翌々月など、報酬が支払われるのが遅いケースがある点もデメリットです。

運送業を開業する場合は偽装請負に注意する

個人事業主として運送業を開業した場合でも、従業員の雇用はできます。雇用した従業員に運送業務を行わせることは可能ですが、この場合は「偽装請負」に注意が必要です。

偽装請負とは、実態としては発注主が請負人の労働者を直接指揮監督しているにもかかわらず、形式的には請負契約として偽装している労働者派遣を指します。

事業主が従業員と直接雇用契約を結んだ場合、人件費や管理コストなどがかかります。そのため、他社と請負契約を結び、他社の従業員に自社の仕事をしてもらっているように見せかける運送業者がいますが、これは偽装請負にあたる行為です。偽装請負は労働者の権利を侵害する恐れのある違法行為であり、罰則規定も設けられています。

偽装請負を行った場合の罰則

運送業者が偽装請負を行った場合、労働者派遣法や職業安定法、労働基準法に基づく罰則の対象となる恐れがあるため注意が必要です。

労働派遣法では、労働者派遣事業を行う場合、厚生労働大臣の許可が必要であると明記されています。

■労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第5条の1

労働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

引用:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」引用日2023/05/09

偽装請負は厚生労働大臣の許可を得ずに派遣業を行ったとみなされるため、労働派遣法違反となり、1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。

■労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第59条

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

引用:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」2023/05/09

■労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第59条の2

第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者

引用:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」引用日2023/05/09

職業安定法では労働者供給事業を禁止しているため、偽装請負を行った供給元・供給先は1年以下の懲役や100万円以下の罰金に処される可能性があるでしょう。

■職業安定法 第44条

何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
(労働者供給事業の許可)

引用:e-Gov法令検索「職業安定法」引用日2023/05/09

■職業安定法 第64条

次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

引用:e-Gov法令検索「職業安定法」引用日2023/05/09

■職業安定法 第64条の10

第四十四条の規定に違反したとき。

引用:e-Gov法令検索「職業安定法」引用日2023/05/09

労働基準法では一律に中間搾取が禁じられているため、偽装請負による中間搾取が認められた場合は1年以下の懲役や50万円以下の罰金が科せられることがあります。

■労働基準法 第6条

何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

引用:e-Gov法令検索「労働基準法」引用日2023/05/09

■労働基準法 第118条の1

第六条、第五十六条、第六十三条又は第六十四条の二の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:e-Gov法令検索「労働基準法」引用日2023/05/09

まとめ

運送業を開業する場合は、運輸支局に申請する必要があります。申請方法は、「一般貨物自動車運送事業」と「貨物軽自動車運送事業」で異なります。いずれの形態で開業する場合であっても、しっかりと準備を行って申請しましょう。

個人事業主として運送業を開業する場合でも、従業員を雇って事業を行えます。ただし、従業員を雇って事業を行う場合は、偽装請負になってしまわないように注意しなければなりません。きちんと法令や手続きについて理解を深めて、運送業の開業を行いましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA