ベーシックインカムは、生活保護制度や年金制度などの既存の社会保障とは異なり、すべての人に無条件でお金を支給する仕組みです。さまざまな課題の解決策として期待されており、コロナ禍において経済的な打撃を経験したことで、制度の重要性が再認識されました。一方で、財源の問題や労働意欲への影響といったデメリットも議論されています。
当記事では、ベーシックインカムの定義や仕組み、生活保護との違い、導入するメリット・デメリット、導入実績のある国々について分かりやすく解説します。日本での導入可能性についても触れているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
ベーシックインカムとは?
ベーシックインカムとは、すべての人に無条件で一定額のお金を定期的に支給する制度です。「ベーシック=基本」「インカム=所得」を指します。性別や年齢、収入に関係なく支給される新たな社会保障の仕組みとして、日本でも導入の是非が議論されています。
ベーシックインカムの定義と仕組み
ベーシックインカムは、すべての人に無条件かつ普遍的に現金給付を行う制度です。世帯の構成や所得・資産の有無にかかわらず、個人単位で支給され、稼働能力の有無も問われません。支給されるのは用途の制限がない現金であり、毎月などの定期的な頻度で給付されます。
支給額が生活維持可能な水準に達しているものは「完全ベーシックインカム」、それを下回るものは「部分ベーシックインカム」と呼ばれます。ベーシックインカムは、政府の裁量による施しではなく、個人の権利として位置づけられます。また、導入により、すでに困難な状況にある人々への社会サービスや権利を削減することは想定されていません。
生活保護との違い
生活保護制度とベーシックインカム制度は、どちらも最低限度の生活保障という点では共通していますが、対象者や支給方法、手続き方法は異なります。生活保護制度は、生活に困窮している方を対象に、食費・医療費・教育費など必要に応じた支援が行われ、税金や年金の免除も適用されます。ただし、資産状況や就労可能性などに関する厳格な審査が必要で、申請しなければ生活保護を受給できません。
これに対し、ベーシックインカムは年齢制限や所得制限はなく、すべての人に無条件で一定額を定期的に支給する制度で、原則として申請や審査は不要です。さらに、生活保護は収入が増えると支給額が減るのに対し、ベーシックインカムは収入に関係なく給付額が一定である点も特徴です。
ベーシックインカムが注目されている背景
ベーシックインカムが近年注目を集めるようになった最大の要因は、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的な流行です。感染拡大に伴い、多くの人が仕事や収入を失い、社会全体が経済的に大きな打撃を受けました。
こうした状況の中、申請手続きや審査を経ず、すべての人に一律で生活費を給付できる制度としてベーシックインカムの有用性が再評価され、各国で議論が活発化しました。日本では導入には至りませんでしたが、その代替措置として全国民に10万円を支給する特別定額給付金が実施されました。この経験を通じて、将来の危機や不平等への備えとして、ベーシックインカムが現実的な選択肢となり得るかどうかが問われています。
ベーシックインカムを導入するメリット
ベーシックインカムを導入することで、貧困層の解消や労働環境の改善、少子化対策など、社会全体にさまざまなメリットがもたらされると期待されています。ここでは、ベーシックインカムのメリットを説明します。
貧困問題の解消
ベーシックインカムの導入により、すべての人に最低限の生活を支える一定額の現金が無条件で支給されるため、収入が不安定な人々やワーキングプア層の人々にとって経済的な安心感が得られます。
金銭的な不安から解放されることで、生活の安定だけでなく、自己投資や再就職への意欲が高まり、経済格差を埋めて貧困の連鎖を断ち切るきっかけにもなるでしょう。また、困窮により冷静な判断や行動が難しくなる状況を改善し、前向きな選択が可能になる点も期待されています。
労働環境の改善
ベーシックインカムによって生活に必要な収入の一部が保障されると、過酷な労働環境でも「生活のために仕方なく働く」という選択をせずに済むようになります。
その結果、より安全・安心な職場を選びやすくなり、劣悪な環境の職場は自然と淘汰されていくと考えられます。長時間労働の是正やブラック企業の淘汰など、社会全体の労働環境の根本的な改善が期待できます。
働き方の多様化
ベーシックインカムにより毎月一定の現金収入が得られることで、人々は生活のためのフルタイム労働を強いられず、自分に合う働き方を選べるようになります。
副業・パートタイム・在宅ワーク・創作活動など、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が広がれば、心身の健康や家庭との両立にも好影響を与えます。また、経済的な余裕があることで「自分のやりたいこと」に挑戦する人も増え、自己実現の機会が広がるでしょう。
少子化の解消
少子化は、子育てにかかる費用への不安も一因です。ベーシックインカムによって一定額の収入が保障されれば、出産や育児に対する経済的な負担が軽減され、子どもを持つという選択がしやすくなります。
将来的には、家族のライフプランに余裕が生まれ、第2子・第3子の出産を希望する家庭が増える可能性もあるため、出生率向上に向けた有効な施策としても注目されています。
生活保護不正受給の解消
ベーシックインカムは、すべての国民に対して無条件で支給される制度のため、生活保護のように受給の可否を審査する必要がありません。そのため、支給資格を偽って受給する「不正受給」のリスクは低減します。
また、すでに一定の生活支援があることで、不正を試みる動機自体が生まれにくくなる点もメリットと言えます。
ベーシックインカムのデメリット
ベーシックインカムには多くの利点がある一方で、財源の確保や労働意欲の低下といった懸念もあります。制度導入時には、これらの課題に対する十分な研究・議論が必要です。ここからは、ベーシックインカムのデメリットについて説明します。
莫大な財源が必要になる
たとえば、日本で月7万円をすべての国民に支給するには、年間で100兆円以上が必要となります。これは2025年度の日本の一般会計総額である約115兆円に匹敵するため、財政的なハードルは極めて高いと言えます。既存の社会保障制度との一本化や増税による財源確保の案もありますが、国民の理解を得るには多くの議論と調整が必要です。
労働意欲が低下する恐れがある
ベーシックインカムは無条件で一定の金額を支給するため、「働かなくても生活できる」と考える人が出る可能性があります。その結果、労働意欲の低下や人手不足などにつながり、供給力の低下によって物価上昇を招く恐れもあります。一方で、労働意欲に影響がなかったという海外の社会実験事例もあり、導入の影響には慎重な検証が求められています。
ベーシックインカムの導入国
ベーシックインカムは世界各地で実験的に導入され、その効果や課題が検証されています。ここでは、代表的な導入事例としてアメリカ・フィンランド・ブラジルの3か国を紹介します。
- アメリカ
2019年にストックトン市で、低所得者125名を対象に毎月500ドルを支給する取り組みが行われました。フルタイム就業者の割合が増加するなど、労働意欲の向上が確認されました。 - フィンランド
2017年から2018年にかけて、失業者の中から無作為に選ばれた2,000人に対し、毎月560ユーロ(約73,000円)を支給する実験を行いました。受給者のストレスが軽減し、幸福度が向上したという成果が報告されています。 - ブラジル
マリカ市では、地域通貨をカードやスマートフォンにチャージする形式でベーシックインカムを支給しました。支給対象は条件付きではあるものの、消費動向の把握が可能となり、地域経済の活性化にも寄与しています。
日本におけるベーシックインカム導入の可能性は?
日本におけるベーシックインカムの導入は、現時点では課題が多く、慎重な検討が進められています。年金や医療保険制度との整合性、地域や世代間の公平性、そして100兆円規模とも言われる財源の確保が大きなハードルです。
ただし、給付付き税額控除を取り入れた「日本型ベーシックインカム」を提案する政党の登場など、議論は進展しています。国民の理解と合意形成が進めば、将来的に導入される可能性も十分考えられるでしょう。
まとめ
ベーシックインカムは、すべての人に無条件で一定額を支給する制度です。経済的な不安の軽減や働き方の自由度向上など、さまざまなメリットが期待されています。一方で、その実現には莫大な予算の確保や既存制度との整合性などの課題も多く、社会全体での理解と合意形成が不可欠です。
フィンランドやアメリカなどの導入事例では、労働意欲や幸福度の向上といった前向きな成果が確認されており、日本でも今後の議論が進めば導入の現実味が増すかもしれません。今後は、一人ひとりがベーシックインカムの意義や影響を正しく理解し、自分ごととして考えることが大切になるでしょう。
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